メルセデスは１９６０年代前半、国際ラリーに積極的に参戦し、
数々の勝利を挙げましたが、ポルシェ９１１やランチア・フルビア、
アルピーヌＡ１１０などの軽量でパワフルなマシーンが登場すると
ワークス活動は縮小され、ロンドン－シドニー・マラソンなどの耐久
イベント参戦が中心となりました。
しかしながら、１９７０年代に入ると世界的な政情不安により、こ
ういった耐久イベント自体の開催が困難な状況となり、メルセデス
のラリー活動も休止していましたが、１９７７年にロンドン・シドニ
ー・マラソンが復活開催されることとなり、活動が再開されました。
久々の耐久イベント参戦に向けて、メルセデスＧＢが中心となり
ドライバーやマシーンの準備が行われました。ドライバーについて
は１９６８年の同イベントで優勝したクルーであるアンドリュー・コー
ワンほかが起用されました。マシーンについては２代目’コンパク
ト・クラス’として１９７６年１月のジュネーブ・ショーでデビューした
Ｗ１２３系４Ｄセダンの２８０Ｅが選択され、市販車の６気筒ＤＯＨＣ
２７４６ｃｃ／１７７ｈｐのエンジンを２００ｈｐにチューンし、あわせて
粗悪ガソリン対策などの耐久性強化が図られました。なお、マシ
ーンはＦＩＡの規定に基づいて製作され、１９７６年７月にグループ２
仕様のホモロゲーションを取得しています。
万全の準備を整えて臨んだロンドン－シドニー・マラソンでは、期
待に応えて見事優勝を飾りました。この結果を受けて、メルセデス
はマシーンの熟成と耐久性のアピールを図るためＷＲＣ参戦も計
画し、翌１９７８年のサファリ・ラリーに出場しました。当時のサファ
リ・ラリーは総距離が５，０００ｋｍ以上で耐久色が非常に強く、過
酷な環境下で行われていたことから、エンジンの高温対策や川渡
りの際の防水対策などの強化を目指しました。
サファリ出場に向けて４台の２８０Ｅが用意され、ドライバーには
アンドリュー・コーワン、ジョギンダ・シンなどのベテラン勢が起用
されました。この年のサファリは、豪雨により最悪のコース・コンデ
ィションとなり、度重なるルート変更が行われましたが、泥濘や増
水した川渡りによるトラブルが続出し、メルセデス勢も４台中３台
がリタイアしたものの、最後に残ったソビエスラウ・ザサダが６位
完走を果たしました。
国際ラリーに久しぶりに出場したメルセデス・チームは翌１９７９
年もサファリ・ラリーに参戦しました。この年のメルセデスは、本国
ドイツからマシーンや機材が大量に持ち込み、サファリ制覇を目指
しました。
マシーンは実績のある３台の２８０Ｅを昨年同様にアンドリュー・
コーワン、ジョギンダ・シンそしてソビエスラウ・ザサダに託したほ
か、市販車で最上級クラスの４５０ＳＬＣを３台投入し、ドライバー
にはビヨルン・ワルデガルド、ハンヌ・ミッコラそして地元のビック・
プレストンＪｒを起用するという強力な布陣で臨みました。
なお、新たに投入された４５０ＳＬＣは、３００ｈｐにチューンされた
５０２５ｃｃＶ８エンジンを搭載し、ボディや足周りはサファリの悪路
対策として強化が施されましたが、市販車の耐久性をアピールす
るためトランス・ミッションは３速オートマチックのままとし、パワー・
ステアリングも装着した異例の仕様で、ＦＩＡのグループ４ホモロゲ
ーションを取得しました。
ラリーはメルセデスの期待に応えて終盤までＨ・ミッコラの４５０
ＳＬＣがリードしましたが、ラジエター・トラブルによりシェカ・メッタ
のダットサンＰＡ１０にかわされて２位でゴールのナイロビに到着
しました。その他のメルセデス勢は、４５０ＳＬＣのＢ・ワルデガルド
が６位、２８０ＥのＡ・コーワンが４位、Ｊ・シンが１１位となり、出場
６台中４台が完走を果たす好成績をあげました。
この結果を受けて、メルセデスは４５０ＳＬＣによるＷＲＣ参戦を
検討することとなり、この年の最終戦コートジボアールに出場し、
初優勝をあげました。
翌１９８０年はワークス体制でポルトガル、サファリ、アクロポリス
アルゼンチン、ニュージーランド、そしてコートジボアールの６戦に
出場しました。マシーンは新たにホモロゲーションを取得した５００
ＳＬＣ（グループ２）や２８０ＣＥを投入し、レギュラー・ドライバーとし
てＢ・ワルデガルドと契約、イベント毎にＨ・ミッコラやＡ・コーワン、
Ｉ・カールソンなどのベテラン勢を起用してＷＲＣ制覇を目指しまし
た。しかしながら、年々スプリント化するＷＲＣにおいて、軽量パワ
フルなフィアットやフォード勢に対抗するのは困難であり、総力戦
で臨んだサファリでもダットサンの牙城を崩すことが出来ず、優勝
はコートジボアールであげた１勝に止まり、選手権ポイントも４位に
終わりました。
翌１９８１年シーズンに向けて１９８０年のＷＲＣチャンピオンであ
るワルター・ロールを迎えて５００ＳＬＣのテストを開始しましたが、
結局メルセデス・ワークスのＷＲＣ参戦は１９８０年で終了し、以降
はプライベート・チームによる参戦のみとなりました。 |
ＧＡＬＬＥＲＹ
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