日産の乗用車ラインナップにおいて、サニーとブルーバードの中間ク
ラスとして１９７３年にデビューしたバイオレット（７１０型）は、曲面を
多用したファストバック・スタイルの意欲作でしたが、そのスタイルが
不評で販売は振るわず、１９７７年５月には２代目（ＰＡ１０型）にフル
モデルチェンジが行われました。
ＰＡ１０型は、５１０型ブルーバードを彷彿させる直線的でオーソドッ
クスなスタイルに戻り、姉妹車としてスポーツ・タイプの「オースター」
とラグジュアリー・タイプの「スタンザ」が誕生しました。ただし、当時
は排気ガス規制の嵐が吹き荒れており、先代から引き継いだエンジ
ン（Ｌ１６・Ｌ１８）は翌年Ｚ型に変更となりパワーダウンを余儀なくされ
足回りもコストダウンのために後輪がセミ・トレーリング・アームの独
立懸架から４リンク・リジットの固定懸架に変更されるなど、廉価なフ
ァミリーカーを目指したモデル・チェンジとなりました。
一方、日産ではサファリラリーを主とした世界ラリー選手権（ＷＲＣ）
参戦を継続的に行っており、１９７７年シーズンまでは７１０型バイオレ
ットをベース車としていましたが、モデル・チェンジに伴い翌１９７８年
からはＰＡ１０型をベース車とすることになりました。
ＰＡ１０型バイオレットのワークス・マシーンには、ツイン・キャブ装着
や圧縮比アップ等を施し１８５ｐｓまでチューンされた輸出仕様のＬ２０
Ｂ型ＳＯＨＣエンジンが搭載されました。先代７１０型のグループ４仕
様では、Ｌ２０型にＤＯＨＣヘッドを組み込み、２００ｐｓ以上を発揮して
いましたが、レギュレーションの変更によりヘッドのＤＯＨＣ化が出来
なくなったため、非力なＳＯＨＣエンジンでの参戦となりました。
また、ベース車の後輪はコスト・ダウンを図るため、独立懸架から固
定懸架となったことが操縦性や耐久性に大きく影響を及ぼすこととな
り、開発段階においてトラブルが多発しました。
様々な問題を抱えたＰＡ１０型バイオレットのワークス・マシーンでし
たが、１９７８年のＷＲＣサファリ・ラリーでデビューを果たしました。
日産ワークスはこの年からヨーロッパに活動拠点（ＴＤＥ：チーム・ダ
ットサン・ヨーロッパ）を設け、スプリント・ラリーを含めたＷＲＣ参戦を
行うこととなりました。その初戦であるサファリ・ラリーにおいて、ラウ
ノ・アルトーネンの駆るＰＡ１０は、予想に反して驚くべきスピードをみ
せ、一時はトップに躍り出ました。最終的にはトラブルやコース・オフ
により３位となりましたが、ワークス・チームに自信を与える結果とな
りました。この年は、サファリのほかアクロポリス、１０００湖、ＲＡＣラ
リーに参戦し、非力なグループ２仕様ながら度々上位入賞を果たし、
翌シーズンからのＷＲＣフル参戦に向けての足掛りとなりました。
１９７９年はＷＲＣメイクス・タイトル獲得を目指し、モンテカルトとツー
ルド・コルス以外の全戦に出場しました。ドライバーには、Ｓ・メッタや
Ｒ・アルトーネンなどの耐久ラリーを得意とするベテラン勢のほか、若
きフィンランド・フィンであるティモ・サロネンを起用し、スプリント・ラリー
に備えました。ただし、マシーンはグループ４仕様のＤＯＨＣエンジン
のホモロゲーション取得が儘ならなかったことから非力なグループ２
仕様（１６０Ｊ）による参戦となりましたが、出場したラリーでは予想に
反してコンスタントに好成績を挙げました。
この結果、ＷＲＣマニュファクチャラーズ・タイトルはフォードに次ぐ２
位を獲得し、日本車として初の快挙を成し遂げました。
翌１９８０年は前年キャンセルしたモンテカルロとツールド・コルスに
も出場し、引き続きＷＲＣ制覇を目指しました。マシーンはこの年もＤ
ＯＨＣエンジンのホモロゲーションが得られず、非力な１６０Ｊによるも
のとなりましたが、得意のサファリとニュージーランドで優勝を挙げ、
その他のラリーにおいても度々上位に入賞し、この年のＷＲＣタイトル
もフィアットに次ぐ２位を２年連続で獲得しました。
懸案であったＤＯＨＣエンジンのホモロゲーションは、１９８１年１月
にようやく認可され、１９８１年シーズンはグループ４仕様のＧＴとグル
ープ２仕様の１６０Ｊを平行して走らせることとなりました。
前年と同様にＷＲＣ制覇を目指して全戦に出場を計画し、初戦のモ
ンテカルロでは、グループ４仕様のマシーンが１３位完走を果たしまし
た。得意のサファリではこの年も表彰台を独占し、その他のラリーでも
上位入賞を堅実に果たし、悲願のメイクス・タイトル獲得を目指しまし
たが、グループ２仕様のマシーンで着実に上位入賞を続けたタルボに
及ばず、３年連続２位という結果に終わりました。
ＷＲＣタイトル獲得の夢を果たせなかった日産ワークスは、翌１９８２
年の活動を大幅に縮小し、翌１９８３年からの本格導入が予定された
グループＢ規定に合わせ、シルビア（Ｓ１１０）をベースに２４０ＲＳの
開発を進めました。実戦にもこのシルビアが投入され、ワークス・マシ
ーンとしてのＰＡ１０の活躍は終焉を迎えました。
第一線を退いたＰＡ１０ですが、４連覇を目指すサファリ・ラリーにお
いてはその実績を重視し、マルボロをプライベート・スポンサーに得た
Ｓ・メッタがスクラップ寸前のＰＡ１０（ＧＴ）を復活させて参戦しました。
ラリーは前年のいざこざにより日産を離れてオペルに移籍したＲ・ア
ルトーネンのアスコナ４００がリードしましたが、トラブルによりリタイア
したため、メッタのＰＡ１０（ＧＴ）がトップでナイロビに戻り、前人未到の
サファリ４連覇を達成しました。
この年、日産ワークスのＰＡ１０はサファリとアクロポリスのみに参戦
し、その他のラリーはシルビア（Ｓ１１０）に託し、１９７８年以来のワー
クス活動に終止符を打ちました。
ＷＲＣにおける実績の割りにあまり人気のないＰＡ１０バイオレットで
すが、ベースの市販車の雰囲気を色濃く残したオーソドックスなマシ
ーンでフィアット１３１アバルトやフォード・エスコートなど並み居る強豪
マシーンと互角に戦い、日産ラリー活動の黄金時代を築きました。
個人的にもあまりに地味な印象から、製作意欲の湧くマシーンでは
なかったのですが、その活躍を改めて認識し、好きなラリーカーの１
台になりました。 |
ＧＡＬＬＥＲＹ
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1979
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VIOLET 160J Gr.2
SAFARI RALLY No.９ |
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1980
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VIOLET 160J Gr.2
SＷＥＤＩＳＨ RALLY
No.５ |
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1980
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VIOLET 160J Gr.2
SAFARI RALLY No.1 |
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1981
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VIOLET GT Gr.4
MONTECARLO RALLY
No.24 |
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1981
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VIOLET GT Gr.4
SAFARI RALLY No.７ |
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1981
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VIOLET GT Gr.4
TOUR DE CORSE
No.18 |
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1982
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VIOLET GT Gr.4
SAFARI RALLY No.１ |
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